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【第三話・傷痍】

年の瀬も近づいてきた頃、アンパンマンはいつものようにパトロールをしていた。
グライドするように滑らかに飛行する彼の頭上には、昼間だというのに、雲に覆われて薄暗い空が広がっていた。

「……ひと一雨…きそうだな。いや…この寒さだと、雪になるかな。今夜はホワイトクリスマスになりそうだな……。」

地上に異変がないか見渡す一方で、時折首を上げて重い空を見上げつつ、アンパンマンは独り言ちた。

パンを焼く時の、特注のひと際大きな釜から伝わる熱の暖かさ、バタコさんが作った豪勢なクリスマス料理、ジャムおじさんが焼いたクリスマス特製パン、ささやかなクリスマスプレゼントに喜ぶメロンパンナの笑顔。
そんな微笑ましい光景に想いを馳せていたアンパンマン。
しかし、彼のその恍惚とした思考は、突然の悲鳴によって遮断された。

<@>「うわ〜ん、わたしのニンデンドーDS、返してよぉ〜!!」

すぐさま悲鳴の方向に急行すると、案の定、バイキンマンが子供からオモチャを奪っていたところだった。
チッ、またか!アンパンマンは軽く舌打ちを鳴らした。

「あ、アンパンマンだぁ!ねぇアンパンマン、聞いてよ!バイキンマンがね、今日ママに貰ったばっかりのわたしのゲーム取ったの!」

「もう大丈夫だよ、すぐに僕が取り返してあげるからね。」

「やーいバイキンマン、アンパンマンが来たからには、もう観念なさい!ベェ〜だ!!」

バイキンマン向かって「い〜っ」と舌を出す女の子にアンパンマンは優しく笑いかけると、振り返ってバイキンマンをキッと睨んだ。

「やめろ、バイキンマン!今日はクリスマスだぞ。一年で一番平和であるべき日に、いったい君は何をやっているんだ!」

「は〜ひふ〜へほ〜!俺様にはクリスマスもクソも関係ないん……っっつぅ!!」

例の如く、悪びれた様子もなくおどけようとしたバイキンマンであったが、突然走った痛みの電撃に、顔を歪ませた。彼の腕にはギプス、そして頭には、真新しい包帯が巻かれていた。その包帯からは、じわりと血が滲んでいた。

「バイキンマン、怪我をしているからって容赦はしないぞ!」

アンパンマンは、手負いのバイキンマンに躊躇なく飛びかかる。

「ふん、そのくらいのハンデがあって丁度よいくらいだ!」

バイキンマンは不敵な笑みを浮かべ、アンパンマンの攻撃をさっとかわす。しかし、やはり傷の影響なのか、いつもよりは聊か反応が鈍くなっている。
カウンターを警戒してとっさに防御の体勢入ったアンパンマンだが、バイキンマンからの反撃はない。
ここぞとばかりに怒涛の攻撃を浴びせようとするアンパンマンだが、バイキンマンはそれらを全て、痛みに顔を歪めつつも、辛うじて回避した。しかし、いつものバイキンマンとは今日は様子が違った。彼の方からは、決して攻撃を仕掛けては来なかったのだ。

今日のバイキンマンは少し妙だな、とアンパンマンは思った。いつもの『10tonハンマー』すら出すそぶりも見せない。……戦う気が、ないのか?

「おぉっと、今回ばかりは、何が何でもやられる訳にはいかないのだ。勝負はひとまずお預けだ……ば〜いば〜いき〜ん!!」

そう言うとバイキンマンは急旋回し、一目散に逃げて行った。

「くっ、しまった!!」

バイキンマンの予想外の行動に一瞬あっけらかんとしたアンパンマンだが、急いでバイキンマンの後を追った。
先日からの胸の引っ掛かりを未だ拭えぬまま、必死にバイキンマンを追跡するアンパンマン。

途中で、バイキンマンの向かっている方向が、バイキン城とは異なることに気づいた。

「バイキンマンの奴、いったい何処へ……?」

アンパンマンの胸騒ぎは、次第に大きくなる一方であった。