自称「ネタテキストサイト」。文章以外にも、いろんなコンテンツあるよー^^

TOP    ABOUT ME    BBS    LINK    MAIL   

【第四話・追尾】

バイキンマンを追跡し始めて、小一時間ほど経った。まだ昼過ぎだというのに、辺りはだんだんと仄暗くなり、いよいよ薄気味悪い雰囲気が増してきた。

「ここは……くらやみ谷……!?」

四六時中、薄暗闇に閉ざされた谷……それがこの“くらやみ谷”。その薄気味悪さ故に誰も近寄ろうとはせず、謎に包まれた谷である。
人が近づかないせいか、この谷には奇怪な噂も多々ある。“谷底には悪魔の集落がある”“子育てを苦にした親が子を捨てにくる”など、ほとんどは根も葉もない迷信であるが、それでもアンパンマンの背筋をぞくっとさせた。

「バイキンマン……こんな所で一体何を企んでいるんだ……?」

疑念に不安が混ざり、アンパンマンはいっそのことバイキンマンの目の前にひょいと現れて、真相をお尋ねしたいと思ったが、胸のもやもやをなんとかしたいという、その気持ちを辛うじて抑え、息を殺して追尾を続けるのであった。
そんなアンパンマンの心境など露ほども知らないバイキンマンは、どんどん谷の奥深くまで進むのであった。

しばらくすると霧が深くなってきて、いよいよ、それこそ本当に“くらやみ谷”という様相を呈してきた。霧のせいでバイキンマンを見失いかけたアンパンマンだが、辛うじてバイキンマンを追った。

また更に深くまで来ると、急に霧が晴れて、谷底に開けた空間が現れた。
そこには、一つの集落めいた、いくつかの貧相な建物の集まりがあり、バイキンマンはそこに向けて下降していった。

「もしや…ここが噂の“悪魔の集落”……!?」

少しドキっとしたアンパンマンだが、「いや、ただの迷信さ。」と自分の馬鹿げた発想を自嘲気味に無理やり振り解いた。


バイキンマンがその集落に入っていくのを遠くで確認し、アンパンマンも続けて集落に入っていった。


アンパンマンはしばらく集落内を歩き回ったが、人影は全くなかった。
集落の建物は殆どが民家らしく、その造りどれも原始的、というか、見たところ谷の岩々を切り崩した石のレンガを積み重ねて建てた、という感じの簡単な造りだった。
さらに集落には、小さいが畑がいくつかあった。しかし、如何せんこの谷底は、日光すら満足に当たらない不毛の地である。本来作物など育つはずがない。
それでも、おそらく管理者の丁寧な手入れの甲斐であろう、痩せた野菜が申し訳なさそうに実っていた。

改めて周りを見渡すと、どうやら谷はこの場所で行き止まりらしいことに気がついた。三方を囲う崖は、さながら集落と外界を隔てる“壁”のように思えた。

「寂しい所だな……。一体全体、こんな場所に誰が住んでいるというのだろう?」

アンパンマンの頭の上の疑問符は、更に増えるばかりである。


集落の中心部まで来ると、塀に囲まれた大きな建物があった。
一体どこから材木を持ち込んだのであろう、その建物は木造の立派な造りだった。他の建物とは明らかに異なっていた。
レンガの塀にポカンと開けた門には、木彫りの表札が掲げてあった。

「『ニ…コ…ニコ…園』?」

この谷の雰囲気とはおよそかけ離れたその建物の名前を訝しげに読み上げたその時、中から子供のはしゃぎ声が聞こえてきた。

「わーい、サンタさんだ!サンタさんだぁ!」

何事かと驚いたアンパンマンは、門を抜け裏手に回り、窓から建物内部の様子を伺った。そしてその刹那、彼は言葉を失った。

「サンター、サンター!ばいきんサンタだー!」

そこには、サンタクロースの格好をしたバイキンマンが、たくさんの子供たちに囲まれ幸せそうに笑っていたのだった。

「ばいきんサンタさん、プレゼントはなにかな?なにかなー?」

目をきらきら輝かせて群がる子供たちに、バイキンマンは優しく微笑みながら言う。

「おかしにプリキュア変身セットに、くまさんのぬいぐるみ、ムシキングのカード……それにPSPだってあるんだ。すごいだろう?どれでも好きなものをあげるよ。」

瞬間、アンパンマンの頭の中の点と点が、一本の線で繋がれた。

その時、ふと窓の方を見遣ったバイキンマンと目が合ってしまった。

「!?しまった……!?」

もはや全てを目撃したであろうアンパンマンと目が合ったバイキンマンは、意外なことに、別段驚いた様子ではなかった。


ただ、その瞳には、憂愁ともとも諦念とれるような、優しく、哀しい色が湛えられていた。