「あたし達……もう終わりにしよ?」
「いきなり何だよそれ!?俺達、昨日までフツーだったじゃん!!」
「ごめん、もう疲れたよ、takeと付き合うの。」
「はぁ?意味わかんねーよ!俺の何がいけねぇってんだよ!?」
「ほら、そうやってすぐ怒鳴る!アンタはいっつも傲慢で、気に喰わないことがあれば感情にまかせて怒鳴り散らすんだから!もうついてけないよ!!」
*****
「あぁ、またかよ!もういいよ、“delete”だ!こんなヤツ“delete”だ!!」
僕は頭に装着していたヘッドギアを投げ捨て、キーボードの隅っこの“Del”キーを粗暴に叩いた。
「“nao”をdeleteしますか?」
ディスプレイ上に浮かび上がるメッセージ。僕は当然の如く「はい」のボタンに向けてマウスを滑らせ、クリックした。
――これで不快なものは消え去った。
“eden”
それはコンピューター上に「もうひとつの世界」を創造するソフトだ。ここ最近世界中で大ヒットをカマしているこのソフトは入手が困難で、一昨日僕もようやくネットオークションで落としたところだ。
“Log in”すれば、そこには自分の理想の世界――“Eden”を造ることができ、自分の思いのままに世界を創造できる。
専用のヘッドギアを装着したら、まるで“Eden”に自分の体ごと転送されたと錯覚するほどのリアルな映像が目の前に現れ、頭でイメージした通りに自分の体も動かすことができ、なんと感覚すらも、得られる。
もし世界が思い通りにならなかったら“reset”したらいいし、嫌いなヤツがいても“delete”してやればいい。
――全ては僕の思いのまま。世界は僕を中心に回っている。
何て快感なのだろう。
“Eden”
まさにそれは楽園そのものだ。そして僕は――「神」?
神サマなんてものの存在はビタイチ信じちゃいないけど、便宜上、そう、僕は、この“Eden”という世界においては、「神」と呼ばれるべき存在なのだ。
この世界の意思は、即ち、僕自身の意思だ。
ここにいれば、僕は何でもできる。何でも手に入る。
勉強しなくてもいい。うるさい大人もいない。友達もいいヤツばかりだ。こっちには可愛い彼女だっている。
最高だ。もう“real world”なんていらない、と思えるほどに。
事実僕は、学校が終わったら直ぐに家に帰って、逐一パソコンの電源を入れる。そして夜中までEdenに入り浸っている。
僕の半分はrealで生き、もう半分はEdenで生きている。
いや寧ろ、Edenでの僕が本当の僕であると言ってもいい。そうであったらいいな、と思う。本当に。
――ここにいれば、もう僕は、二度と、悲しい思いなんてせずに済むんだ。
*****
「畜生、畜生!テメエらなんて全員、消えちまえよ!!」
僕はDelキーをひたすら叩き続けた。
今日僕は、“現実”に完全に絶望した。
昨日まで「友達」だと思っていた奴ら。僕同様、クラスのいじめの対象だった奴ら。
理不尽な理由で僕たちをいびり、蔑む低脳野郎共にレジストする同志――僕は少なくとも、奴らに対してはそういう意味で一目置いていた。
しかし今日、奴らは僕を売った。いとも、簡単に。
「自分はもういじめられたくない」
そんな糞みたいな理由で奴らは僕を売り、いじめの対象を僕だけに転嫁し、逃げた。
僕は心底失望した。同時に、腹が立った。所詮は奴らも、低脳野郎の仲間の一部だったわけだ。
「存在価値なんてねぇんだ!テメエらみてぇなカスにはよ!」
家に帰ると即座に“eden”を起動させた。
腹いせに、奴らとクラスの低脳野郎共に似せた存在を“eden”中に作成し、散々いたぶったあと、deleteしてやった。
「消えろ!消えろ!」
怒りにまかせてDelキーを連打していると、警告音が鳴った。
「累計delete人数が規定値を超えました。これ以上deleteすると、外部に干渉を与えてしまう可能性があります。それでもdeleteを続けますか?」
「規定人数?そんなもんあったんか??んだそりゃ、知るか!」
感情が高ぶっていた僕は、警告を無視してDelキーを押し続けた。押す度に警告が表示されたが、無視を続けているとやがて表示されなくなった。
――現実なんて、糞くらえだ。
現実の家族も、友達も、恋人も。
いつ裏切られるかわからない。
いつ自分を攻撃してくるかわからない。
信じられるものか、そんな脆い現実なんて。
だから僕は僕の世界を作る。
全ての不幸も、障害も、不都合も、たちまちに削除したりできる世界。
できることなら、心の傷も消せたら、なんて………
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・
気がついたら、夜明け前だった。
薄暗い部屋の中、ディスプレイの光だけがチカチカ眩しい。
どうやら昨夜はPCを起動させたまま眠ってしまったらしい。
――もうひと眠りするか
PCの電源も落とさないままに、僕はベッドに潜り込み惰眠を貪った。
*****
いつもと変わらぬ朝、今日の憂鬱がのしかかる。
「学校、行きたくねぇな。」
今日は学校を休もうと思ったのだが、よくよく考えたら、昨日の今日で学校を休むと、また低脳野郎は付け上がって僕を馬鹿にするだろうと思うとなんか悔しいので、渋々学校に行くことにした。
今日もさっさと家に帰って、eden しよ。現実なんて知るもんか。くだらねぇ。本当に。
*****
学校に着くと、僕の靴箱がなくなっていた。教室に入ると、机もロッカーもなくなっていた。話しかけても誰も反応しない。
「おいおい、とうとうクラスぐるみで俺を無視かよ。つくづく頭悪いんだな、てめえらは!」
正直、さすがにこれほど酷いいじめになるとは思わなかった。カス共のあまりの低脳ぶりに不愉快になった僕は家に帰ろうと思ったが、こんな時間に家に帰ると母親が不信がって余計面倒なことになるだろうから、学校近くのファミレスで時間を潰すことにした。
店に入るなり、案内もしない無愛想な店員に腹立ちながらも席に着くが、いつまでたっても注文を聞きに来ない。
「おい!注文とりに来いよ!おいったら!!」
何度叫んでも、何の反応もない。
「何だよ、これ!?みんなして俺を無視しやがって!!これじゃまるで俺がこの世界に――!??」
「この……世界……に………?」
背筋をピキっと走るような、寒気がした。退屈なだけのいつもの日常とは、何かが違う。何かが……。
急いでファミレスを出て、家に向かって走る。
大げさに家の玄関を開ける音が家中に響く。母親は家にいるはずだが、やはり反応はない。
一目散に自分の部屋に入るなり、昨夜から電源を入れっぱなしのPCのディスプレイを覗き込む。
“real world”
aki..........rog in
akira........rog in
aya..........rog in
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「おい……何だよ、これ………?」
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emi...........rog in
eri...........rog in
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「何の……冗談だよ………?」
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taiki..........rog in
takashi.......rog in
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take..........deleted_
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