人気のない寂れたコインランドリーに、洗濯機の仰々しい音が響き渡る。同時に、すきまっ風がびゅうびゅうと吹き込み、ドアをガタガタと鳴らした。
チカチカと鬱陶しい切れかかった蛍光灯の下で、表紙がボロボロになった単語帳を、読み耽る。覚えきれていなかった単語や熟語は、自作の単語カードに書き込んでいく。センター試験はもう、間近だった。
(ガランゴロン ガランゴロン……)
・
・・・
・・・・・
阪急電鉄箕面線・桜井駅――。
新聞配達の仕事を辞めて、早や二ヶ月が経とうとしていた。都心である大阪市を離れ、僕は私鉄沿線の、この長閑な町に越してきた。
仕事を辞めてからというものの急に退屈な日々を過ごすことになった。もちろん、受験勉強も追い込みの時期に差し掛かり、以前にも増して怒涛の勉強量をこなしていた。しかし、今まで仕事に当てていた時間がそっくりそのまま勉強時間に転化した、という訳ではなかった。睡眠時間を約8時間として、一日残り16時間。食事やら雑事の時間を除けば、実質一日の有効時間は大体、14時間といったところか。
元々僕は、そんなに集中力の続く人間ではなかった。勉強時間は、日によってバラつきはあるが、平均して一日約8時間。長いときでも、10時間ちょっとが限界だった。
となると、残りの約6時間は、どうやって過ごすか。これが、当時の僕の生活の中での、勉強以外の最大の争点だった。
当時は、テレビもなければゲームなかった。漫画は数冊置いてあったけど、全てもう何度も読んで飽きたものばかりだった。受験生だから遊びに行く訳にもいかず、話し相手もおらず。
無味乾燥な時間だけが、僕の真横を通り過ぎていった……。
・・・・・
・・・
・
(ガラガラガラガラ……ゴトン ピー ピー)
洗濯機のタイマーが切れた。洗濯終了の合図の機会音が鳴り、ふと我に返った。
洗濯機から、大量の洗濯物を取り出す。下着、靴下、部屋着のスウェット、そして、寝巻き代わりにしている、高校の体操服。「どうせ外に出ないから」そう言いながら溜まりに溜まった洗濯物。約3週間振りの洗濯だった。
取り出したカゴいっぱいの洗濯物を、一気に乾燥機に移しかえた。乾燥機のフタを閉め、コインを入れる。
ガコン カラカラカラカラ……
どうやら間違って隣の空いた乾燥機にコインを入れてしまったらしく、乾燥機は情けないほど空っぽ音を立てて、回りだした。
空回りする乾燥機は、まるで今の自分だな、と思った。ひどく滑稽に思えた。乾燥機も、自分自身の姿も。
(カラカラカラカラ……)
・
・・・
・・・・・
“ピキン”と音がしそうな程、凍てついた空気。都心とは全く異なる、澄みきった空気。人通りも車も電車もなく、辺りはしん、と静まり返っていた。
派遣アルバイトの仕事がようやく終わった。日給、約1万2千円。新聞配達時代に貯めた貯金も合わせて、これから数ヶ月間、とりあえず浪人生活が続くまでの暮らしを賄う分にはギリギリ足りるかな、と一安心した。
大阪市内から車で送迎してもらい、最寄りの駅まで戻ってきた。駅から家までは、歩いて15分程度。寒さに身を縮めながらトボトボと歩く、夜明け前の帰り 道。星空が、恐ろしいくらい綺麗だった。地元でも大阪市内にいた時にも、こんな星空は、見たことがなかった。なんだか鼻水が垂れて、目が涙目になってきた のは、きっと凍てつく寒さの所為だけでは、なかった。と、思う。
・・・・・
・・・
・
(ピー ピー)
洗濯機と同様に、乾燥機のアラーム音が鳴る。先に鳴ったのは、空回りしていた方。数分後に、洗濯物をちゃんと入れた方の乾燥機が鳴った。
持ってきたゴミ袋に、洗濯物を詰め込む。ふと洗濯機を見遣ると、取り忘れの靴下が、一足。もう一度乾燥機を稼動させるにはもったいないし億劫なので、気にせずゴミ袋に放り込んだ。
外に出ると、雪がちらついていた。
「来週、か……冷え込まないと、いいけどな。」
冷え込みが激しくなる一方の最近の天気を気にしながら、ズッシリ重いゴミ袋を自転車の前カゴに乗せて、アパートへと続く上り坂を、一気に駆け上がった。
センター試験はもう、間近だった。
|